事業承継79📋 M&Aで会社を買う前の確認事項|事業承継を成功させるデューデリジェンス

「良さそうな会社が見つかった。早く基本合意を結びたい」と思っても、少し立ち止まってください。

事業承継M&Aで会社を買う目的は、株式や設備を取得することではありません。取得後も顧客が残り、従業員が働き、利益と資金を生み続ける事業を引き継ぐことです。

売上や利益だけを見て買収すると、取得後に簿外債務、設備更新、従業員の退職、顧客離反、許認可の問題などが判明する可能性があります。

この記事では、中小企業がM&Aで会社や事業を買う際に行うデューデリジェンスについて、財務・税務・法務・人事・事業・ITの確認事項と、買収価格や契約条件への反映方法を解説します。

中小M&Aガイドライン第3版では、買い手側にも、売り手の経営者保証の扱い、譲渡後の事業運営、資金力や信用力に関する確認など、責任ある行動が求められています。M&Aは売り手を調べるだけでなく、買い手自身が取得後の経営を実行できるかを問われる取引です。 資金調達や経営に関するお得な情報を発信中。
公式ライン https://lin.ee/n0HtDNN

1. デューデリジェンスの目的は欠点探しではない

デューデリジェンスは、売り手の問題を見つけて値下げするためだけの手続ではありません。

本来の目的は、次の4つです。

・買収するかどうかを判断する
・適正な価格と条件を決める
・契約で対応すべきリスクを整理する
・取得後の100日計画を作る

問題が見つかった場合の対応は、買収中止だけではありません。

問題への対応具体例
売り手が契約前に直す未整備の契約書を締結する
価格を調整する設備更新費用を価格から控除する
契約で対応する補償や表明保証を設定する
取得後に改善する原価管理や勤怠管理を導入する
対象から除外する不要不動産や特定事業を外す
買収を中止する重大な違法行為が解消できない

大切なのは、問題の有無よりも、「いくらかかるのか」「いつまでに直せるのか」「誰が責任を持つのか」を判断できることです。

2. 財務デューデリジェンスで確認すること

財務DDでは、決算書に記載された利益が、取得後も再現できるかを確認します。

正常収益力

中小企業では、経営者個人に関係する費用、一時的な補助金収入、保険解約益、役員報酬、家族給与などが利益に影響します。

そのため、決算上の営業利益をそのまま使わず、一時的な収益・費用を調整して正常収益力を確認します。

運転資金

利益が出ていても、売掛金の回収が遅く、在庫が多い会社は資金を必要とします。

確認する指標は次のとおりです。

・売掛金回収日数
・買掛金支払日数
・在庫回転日数
・月商に対する運転資金
・季節的な資金需要
・滞留債権と不良在庫

借入金と実質的な債務

借入金だけでなく、リース、割賦、未払金、退職給付、未払残業、保証債務なども確認します。

特に、社長個人からの借入金や会社から社長への貸付金は、取引条件に影響するため、契約前に処理方法を決めます。

3. 税務・法務デューデリジェンスで確認すること

税務DDでは、過去の申告、税務調査、関連当事者取引、消費税、源泉税などを確認します。

法務DDでは、株式、契約、許認可、紛争、知的財産、個人情報などを確認します。

確認分野主な資料主なリスク
株式株主名簿、定款、議事録真の株主が不明
契約顧客・仕入・賃貸借契約M&A時の解除条項
許認可許可証、更新資料承継できない許可
紛争内容証明、訴訟資料損害賠償
知財商標、特許、著作物会社に権利がない
個人情報規程、同意書管理不備、漏えい
コンプライアンス行政指導、社内規程営業停止、信用低下

見落としやすいのが、支配権変更条項です。契約相手の承諾なしに株主が変わった場合、契約解除や通知が必要になる場合があります。

また、許認可は、株式譲渡なら会社に残る場合と、役員変更などに伴う届出が必要な場合があります。事業譲渡では、新たな取得が必要になることもあります。

「M&Aだから自動的に引き継げる」と考えず、許認可ごとに所管官庁へ確認してください。

4. 人事デューデリジェンスで最も重要なこと

中小企業の価値は、人に大きく依存します。

しかし、従業員一覧だけでは、本当の退職リスクは分かりません。

次のような情報を確認します。

・顧客との関係を持つ営業担当者
・製造技術を持つ熟練者
・許認可や資格の維持に必要な人材
・経理や資金繰りを一人で担当する人
・社長との関係で働いている人
・退職意向や定年時期
・給与、賞与、退職金
・未払い残業や社会保険
・就業規則と実際の運用の差

足立区や江戸川区の製造業・建設業などでは、帳簿上の設備より、経験を持つ従業員や協力会社との関係が重要な価値になることがあります。

重要従業員が退職した場合の売上・生産への影響を金額で試算し、引留め策や後継育成をPMI計画に入れます。

5. 事業デューデリジェンスで将来性を確認する

事業DDでは、過去の数字ではなく、取得後も売上と利益が続くかを確認します。

確認する主な項目は次のとおりです。

顧客

・上位顧客の売上比率
・取引年数
・契約期間
・解約理由
・値上げ余地
・顧客が会社ではなく社長についている可能性

商品・サービス

・商品別売上と粗利
・不採算商品
・競争力
・模倣されにくさ
・価格決定力
・代替商品

営業

・新規顧客の獲得方法
・見込み客数
・受注率
・営業担当者への依存
・紹介元への依存

生産・業務

・設備能力
・稼働率
・不良率
・外注依存
・在庫
・納期
・原価管理

事業DDの結果は、買収後の成長計画に直結します。

例えば、売上を20%増やす計画なら、「営業担当を増やす」「単価を上げる」「既存顧客への追加販売を行う」など、具体的な行動と必要費用まで確認します。

6. ITデューデリジェンスを後回しにしない

中小M&AではITの確認が後回しになりがちです。

しかし、会計、販売、在庫、給与、メール、顧客管理などのシステムが使えなくなると、取得初日から業務が止まります。

確認事項は次のとおりです。

・システムの契約名義
・利用料金と更新時期
・データの所有権
・IDと管理者権限
・バックアップ
・セキュリティ対策
・個人端末の利用
・保守会社との契約
・買い手側システムとの連携
・移行費用と期間

特に、社長個人のメールアドレス、個人契約のクラウド、担当者だけが知るパスワードは、早期に会社管理へ移す必要があります。

7. デューデリジェンス結果を価格と契約に反映する

問題を見つけても、報告書を作るだけでは意味がありません。

次の4分類に整理します。

分類判断対応
重大・修正不能買収目的が崩れる中止を検討
重大・修正可能費用と期限を算定価格・契約で対応
軽微・契約前対応売り手が修正可能前提条件にする
軽微・取得後対応PMIで改善可能100日計画に入れる

例えば、設備更新に3,000万円必要なら、買収価格だけでなく、取得後の投資資金を含めて総投資額を判断します。

総投資額=株式取得価格+専門家費用+借入返済対応+設備投資+運転資金+PMI費用

買収価格が安くても、取得後に大きな資金が必要なら、結果的に高い買収になります。

8. 買い手が失敗しやすい3つのパターン

失敗例1:節税や売上規模だけで買う

売上が増えるという理由だけで買収し、粗利、運転資金、人材を確認しないケースです。

対策は、売上ではなく、取得後の営業キャッシュフローで判断することです。

失敗例2:社長が残る前提で価値を計算する

売り手社長が顧客・従業員・仕入先をまとめている場合、退任後に価値が下がります。

対策は、社長がいない状態の収益を試算し、引継ぎ期間と代替体制を明確にすることです。

失敗例3:契約締結後にPMIを考える

契約後から組織統合を検討すると、初日の説明、決裁、給与、システムなどが間に合いません。

対策は、基本合意後から100日計画を作り、DDの確認事項と結び付けることです。

無料相談は以下より受付中。
https://timerex.net/s/yhiranuma04_33cf/037a46fb

9. 実務チェックリスト

期限実施事項成果物
基本合意前買収目的と上限投資額投資方針書
基本合意後DD範囲と担当者決定資料依頼一覧
DD期間財務・法務・人事等の確認リスク一覧
契約交渉価格・補償・前提条件条件整理表
契約前初日・100日計画PMI計画
契約後KPIと課題管理週次進捗表

10. よくある質問

Q1. 小規模な買収でもDDは必要ですか?

必要です。ただし、すべてを大企業と同じ深さで調べる必要はありません。買収目的、価格、リスクに応じて重点分野を決めます。

Q2. 売り手が資料を出してくれない場合はどうしますか?

資料がない理由を確認します。管理不足なのか、意図的な非開示なのかによって判断が変わります。重要資料が確認できない場合は、価格調整や取引中止も検討します。

Q3. 専門家にすべて任せてよいですか?

財務・法務等の専門調査は依頼できますが、顧客、人材、事業の将来性は買い手自身が判断する必要があります。

Q4. DDで問題が出たら値下げできますか?

問題の内容、契約交渉、他の買い手候補の有無などによります。単純な値下げだけでなく、契約前の是正、補償、支払条件の変更も検討します。

Q5. 最も重要な確認事項は何ですか?

買収後に誰が経営し、どのように利益と資金を生み出すかです。数字と組織をセットで確認してください。

11. 今日できる3つ

今日①:買収目的を一文で書く
今日②:取得価格以外に必要な投資を洗い出す
今日③:財務・法務・人事・事業・ITの担当者を決める

M&Aの成功は、問題のない会社を探すことではありません。問題を把握し、対応できる範囲で取得することです。

DDを価格交渉のためだけに使わず、取得後の経営計画を作る材料として活用してください。