事業承継82📋 M&A仲介契約の注意点|専任条項・手数料・利益相反を契約前に確認する

事業承継でM&Aを考えるとき、多くの経営者が最初に迷うのが「どの支援機関に相談すればいいのか」です。仲介会社、FA、金融機関、税理士、会計士、弁護士、事業承継・引継ぎ支援センターなど、相談先は複数あります。

ここで大切なのは、最初から「成約してくれそうな人」を探すことではありません。まず確認すべきは、契約内容が自社にとって不利すぎないかです。

中小M&Aガイドライン第3版では、不適切な譲り受け側、経営者保証、過剰な営業・広告、M&A専門業者の支援品質などへの対応が拡充されています。つまり、M&Aは「相手を探す前」に、支援者との契約と役割を確認する時代になっています。

この記事では、事業承継M&Aを進める前に確認したい、仲介契約・FA契約の注意点を整理します。葛飾区や江戸川区のように地域密着で長く続いてきた会社ほど、価格だけでなく、従業員・取引先・経営者自身の引退設計まで含めた支援者選びが重要です。

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1. 仲介とFAの違いを最初に確認する

まず押さえるべきは、仲介とFAの違いです。

仲介は、売り手と買い手の間に入り、双方の成約を支援する立場です。一方、FAは、原則として売り手または買い手の一方の利益を意識して支援する立場です。

どちらが絶対に良いという話ではありません。小規模な案件では仲介のほうが進めやすい場合もありますし、条件交渉が複雑な案件ではFAのほうが向く場合もあります。

ただし、仲介の場合は、売り手と買い手の双方から報酬を受け取ることがあります。この場合、どちらの利益をどこまで考えてくれるのか、利益相反への対応を必ず確認してください。

確認する質問は次の3つです。

質問確認したい内容
売り手・買い手のどちらを支援しますか支援者の立場
報酬は誰から受け取りますか利益相反の有無
条件が対立した場合、どう調整しますか交渉時の対応

この確認を曖昧にしたまま進めると、あとで「自社の味方だと思っていたのに違った」というズレが起きます。

2. 手数料は「成功報酬率」だけで見ない

M&A支援機関を選ぶとき、成功報酬率だけを比べるのは危険です。

確認すべき費用は、少なくとも次の7つです。

費用項目内容注意点
相談料初回相談や事前診断の費用無料でも範囲確認
着手金契約時に発生成約しなくても返らないことあり
月額報酬活動期間中に発生長期化すると負担増
中間金基本合意時などに発生成約前でも発生
成功報酬成約時に発生計算基準に注意
最低報酬成功報酬の下限小規模案件で重い
実費出張・資料取得など上限設定が必要

特に注意したいのが、成功報酬の計算基準です。

「譲渡価格」に対して計算するのか、「移動総資産」に対して計算するのかで、手数料が大きく変わることがあります。借入金を含む総資産基準で計算される場合、売り手が受け取る金額よりもかなり大きな金額を基準に報酬が計算される可能性があります。

そのため、契約前に必ず次の式で確認します。

実質手取額=譲渡対価-税金-専門家費用-借入等の整理-契約後負担

「いくらで売れるか」よりも、「最終的にいくら残るか」を見てください。

3. 専任条項と直接交渉禁止条項に注意する

M&A支援契約では、専任条項や直接交渉禁止条項が入ることがあります。

専任条項とは、一定期間、その支援機関だけにM&A支援を依頼するという内容です。直接交渉禁止条項とは、紹介された買い手候補と支援機関を通さず直接交渉してはいけないという内容です。

これらの条項自体が悪いわけではありません。支援機関が安心して買い手探索や交渉に動くために必要な場合もあります。

問題は、期間や範囲が広すぎる場合です。

確認すべきポイントは次のとおりです。

・専任期間は何か月か
・自動更新されるか
・解約方法は明確か
・過去に自社で接点があった買い手も対象になるか
・契約終了後も報酬が発生する期間はあるか
・紹介された買い手候補の範囲はどこまでか
・親族や役員への承継まで制限されないか

たとえば、契約終了後2年以内に成約した場合も報酬対象になる条項がある場合、将来の選択肢を狭める可能性があります。

契約前に、必ず「いつまで、誰に対して、どの取引が制限されるのか」を表にしてください。

4. 支援機関登録制度をどう見るか

M&A支援機関登録制度は、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するための制度です。中小企業庁は令和8年度公募について、2026年5月29日に申請受付を案内しています。制度の目的は、中小M&Aガイドラインの理解・普及と、M&A支援機関に一定の規律を持たせることにあります。

また、事業承継・M&A補助金の専門家活用枠では、仲介手数料やFA費用について、登録支援機関による支援が補助対象となる条件が示されています。

ただし、登録されているから絶対に安心、という意味ではありません。

登録は最低限の確認材料であり、実際には次の点を見ます。

確認項目見るポイント
登録状況M&A支援機関登録制度の対象か
担当者経験同規模・同業種の支援経験
報酬体系最低報酬と計算基準
契約条件専任・解約・直接交渉制限
買い手調査資金力・信用力の確認方法
利益相反仲介かFAか、双方報酬の有無
説明力難しい内容を経営者に説明できるか

登録の有無だけで選ばず、契約書と担当者の説明力を合わせて判断してください。

5. 買い手調査を支援機関任せにしない

売り手にとって怖いのは、価格が低い買い手ではありません。もっと怖いのは、資金力や運営力が不十分な買い手です。

中小M&Aガイドライン第3版では、不適切な譲り受け側への対応が重要な論点として扱われています。経済産業省も、ガイドライン改訂において不適切な買い手や経営者保証トラブル等への対応を示しています。

売り手自身も、支援機関へ次の質問をしてください。

・買い手の資金力をどう確認しますか
・過去の買収実績を確認しますか
・取得後の経営体制を確認しますか
・経営者保証の解除方針を確認しますか
・トラブル情報があった場合、どう扱いますか
・買い手からも報酬を受け取りますか
・買い手候補を断る基準はありますか

「良い買い手です」「資金力があります」という説明だけでは足りません。根拠資料と確認方法を聞くことが大切です。

6. 契約前チェックリスト

契約前には、次のチェック表を使って確認しましょう。

項目確認内容判断
支援者の立場仲介かFAか明確ならOK
報酬着手金・中間金・成功報酬総額試算が必要
計算基準譲渡価格か総資産か手取額に影響
専任期間期間・自動更新長すぎる場合注意
解約解約条件・違約金明確ならOK
直接交渉制限範囲広すぎる場合注意
買い手調査資金力・信用力方法確認
利益相反双方報酬の有無書面確認
補助金登録支援機関か対象経費確認

7. 成功パターンと失敗パターン

成功パターン1:契約前に3社比較した

報酬体系、契約期間、担当者の説明力を比較したことで、単に手数料が安い会社ではなく、条件交渉と買い手調査に強い支援機関を選べました。

成功パターン2:専任期間を短く設定した

最初から長期契約にせず、3か月ごとに成果を確認する形にしたことで、支援の質を見ながら継続判断できました。

失敗パターン:最低報酬を見落とした

小規模な譲渡価格だったため、成功報酬率は低く見えましたが、最低報酬が重く、最終手取額が想定より大きく減りました。

8. よくある質問

Q1. M&A仲介会社は何社比較すべきですか?

最低3社は比較したいところです。報酬だけでなく、契約条件、担当者の経験、買い手探索方法、買い手調査のやり方を見てください。

Q2. 登録支援機関なら安心ですか?

登録は重要な確認材料ですが、それだけで十分ではありません。契約内容、担当者、利益相反、手数料体系を必ず確認してください。

Q3. 着手金無料なら良い会社ですか?

一概には言えません。着手金が無料でも、最低成功報酬や契約終了後の報酬条項が重い場合があります。総額で見てください。

Q4. 専任契約は断るべきですか?

必ずしも断る必要はありません。ただし、期間、対象範囲、解約条件、契約終了後の報酬を確認してください。

Q5. 相談前に準備する資料は何ですか?

決算書3期分、借入一覧、株主名簿、主要取引先一覧、従業員一覧、守りたい条件3つを用意すると話が早くなります。

9. 今日できる3つ

今日①:M&A支援機関へ聞く質問表を作る
今日②:報酬体系を「着手金・月額・中間金・成功報酬・最低報酬」で比較する
今日③:契約前に守りたい条件を3つ書き出す

M&Aは、買い手探しよりも前に、支援者との契約で方向が決まります。契約内容を理解しないまま進めると、あとで選択肢が狭くなります。

支援機関は、事業承継を前に進める大切なパートナーです。だからこそ、契約前に遠慮せず質問し、自社の未来を守れる体制を作りましょう。