新事業進出・ものづくり補助金 賃上げ要件とは|1人当たり給与支給総額3.5%をどう設計するか
この記事でわかること
新事業進出・ものづくり補助金の賃上げ要件について、1人当たり給与支給総額とは何か、年平均3.5%をどう考えるか、実際にいくらまで上げれば要件を満たしやすいかを、シミュレーション付きで分かりやすく整理します。
この補助金では、設備や建物、販促だけでなく、投資のあとに従業員へどう還元していくかも見られます。その中心にあるのが、1人当たり給与支給総額の年平均3.5%以上増加という賃上げ要件です。
ただ、ここで多くの会社が迷います。
「月給を何円上げればよいのか」
「賞与込みで考えてよいのか」
「人が増減したらどう見るのか」
といった点です。
この要件は、感覚ではなく、定義と計算ルールに沿って設計することが大切です。高く置きすぎると未達リスクが増え、低すぎると要件を満たしません。ここが実務の難しいところです。
目次
- 賃上げ要件とは何か
- 1人当たり給与支給総額の定義
- どの従業員を数えるのか
- 年平均3.5%はどう計算するのか
- 給与シミュレーション3例
- 賃上げ特例6.0%の見え方
- 申請時に気をつけたいポイント
- 当社ができる支援
- よくある質問
賃上げ要件とは何か
新事業進出・ものづくり補助金では、補助事業終了後3〜5年の事業計画期間において、1人当たり給与支給総額の年平均成長率を3.5%以上増加させることが求められます。
さらに、応募時点で目標値を設定するだけでなく、交付申請時までに全従業員または従業員代表者へ表明することが必要です。達成状況は、補助事業終了後の事業化状況報告で、決算書や賃金台帳等により確認されます。
ここが重要
この要件は、申請時に書くだけでは終わりません。 補助事業後も実績確認があり、未達の場合は返還義務が生じ得ます。
1人当たり給与支給総額の定義
1人当たり給与支給総額は、給与支給総額 ÷ 従業員数で計算します。
ここでいう給与支給総額には、給料、賃金、賞与等は含まれます。一方で、役員報酬、福利厚生費、法定福利費、退職金は含まれません。
| 項目 | 算入 | 見方 |
|---|---|---|
| 給料・賃金 | 含む | 基本給や通常賃金 |
| 賞与 | 含む | ボーナスも対象 |
| 役員報酬 | 含まない | 経営者報酬は別扱い |
| 法定福利費 | 含まない | 社会保険料の会社負担分など |
| 退職金 | 含まない | 一時的な支出は除外 |
つまり、この要件は「従業員に実際に支払う給与水準」を見るもので、会社の人件費総額そのものとは少し違います。
どの従業員を数えるのか
ここは見落としやすいです。算出対象となる従業員は、原則として、その事業年度に全月分の給与等の支給を受けた従業員です。
そのため、中途入社や途中退職で全月分の支給を受けていない従業員は、その年度に限って算出対象から除く必要があります。また、産前・産後休業、育児休業、介護休業などで時短勤務を行っている従業員は、算出対象から除くことができます。パートタイム従業員は、正社員の就業時間に換算して人数を算出します。
つまり、単純に「在籍人数」で割ればよいわけではありません。給与支給の実態に合わせて人数を整理する必要があります。
年平均3.5%はどう計算するのか
この3.5%は、単年度の単純比較ではなく、CAGR(複利ベースの年平均成長率)で考えます。
計算の考え方は、たとえば基準となる1人当たり給与支給総額が400万円なら、最終年度に必要な目安は次のようになります。
| 計画期間 | 基準額 | 最終年度の目安 |
|---|---|---|
| 3年 | 400万円 | 約443万円 |
| 4年 | 400万円 | 約459万円 |
| 5年 | 400万円 | 約475万円 |
つまり、毎年きっちり同率で上げなくても、最終年度までに複利ベースで3.5%以上の伸びになっていれば要件上は考えやすいです。ただし、実務では毎年の給与運用との整合も大切です。
給与シミュレーション3例
ここからは、実際にいくらまで上げれば要件を満たしやすいか、3例で見ます。
なお、以下は従業員数が一定で、全員が通年で給与支給対象という前提でのシンプルな試算です。
ケース1|6人、平均年収600万円、3年計画
1人当たり給与支給総額が600万円の場合、3年後に年平均3.5%を満たすには、最終年度で約665.2万円が目安です。月額換算では約55.4万円、6人合計の年間給与支給総額では約3,991万円です。
ケース2|12人、平均年収400万円、5年計画
1人当たり給与支給総額が400万円の場合、5年後に年平均3.5%を満たすには、最終年度で約475.1万円が目安です。月額換算では約39.6万円、12人合計の年間給与支給総額では約5,701万円です。
ケース3|20人、平均年収550万円、4年計画
1人当たり給与支給総額が550万円の場合、4年後に年平均3.5%を満たすには、最終年度で約631.1万円が目安です。月額換算では約52.6万円、20人合計の年間給与支給総額では約1億2,623万円です。
| ケース | 基準の平均年収 | 計画年数 | 最終年度の目安 |
|---|---|---|---|
| ケース1 | 600万円 | 3年 | 約665.2万円 |
| ケース2 | 400万円 | 5年 | 約475.1万円 |
| ケース3 | 550万円 | 4年 | 約631.1万円 |
このように、同じ3.5%でも、基準額と年数によって必要な着地点は変わります。 だからこそ、自社の現状値を正しく置くことが最初の一歩です。
賃上げ特例6.0%の見え方
賃上げ特例を狙う場合は、通常の3.5%ではなく、年平均6.0%以上が必要です。
たとえば、先ほどのケース1で基準年収600万円なら、3年後の目安は約714.6万円です。ケース2の400万円・5年計画なら約535.3万円、ケース3の550万円・4年計画なら約694.4万円が目安になります。
特例は魅力がありますが、“上限が上がるから狙う”ではなく、“実際に達成できるか”で判断する方が安全です。
申請時に気をつけたいポイント
賃上げ要件を設計するときは、次の点に注意した方が安全です。
1.基本給だけでなく賞与も含めて見る
給与支給総額には賞与も含まれます。月給だけで見てしまうと、実態とズレることがあります。
2.対象従業員の範囲を先に整理する
全月分給与支給のルールや、パートの換算を見ずに人数を置くと、後でズレやすいです。
3.売上計画と整合させる
賃上げだけ先に高く置くと、利益計画や付加価値額計画と噛み合わなくなります。
4.少し余裕を持たせる
年平均3.5%ちょうどに置くと、残業減少や賞与変動で未達になりやすいです。無理のない範囲で少し余裕を持つ方が安全です。
よくある失敗
賃上げ要件は、「基本給を少し上げればいい」だけで考えると危ないです。賞与、対象従業員、年数、他要件との整合まで含めて設計する必要があります。
当社ができる支援
賃上げ要件で難しいのは、ルールを知ることより、自社の給与実態をもとに、無理なく達成できる目標値へ落とし込むことです。
当社では、
- 1人当たり給与支給総額の現状整理
- 3年・4年・5年でのシミュレーション作成
- 賞与や人員構成を含めた設計
- 付加価値額要件との整合確認
- 賃上げ特例を含めた現実的な判断整理
まで含めてサポートしています。
「何円上げれば要件を満たすのか分からない」
「賞与込みでどう計算するか迷う」
「特例まで狙うべきか判断したい」
そんな場合は、早めに整理する方が安全です。
よくある質問
Q1. 1人当たり給与支給総額には賞与も入りますか?
A. はい。給料、賃金、賞与等は含まれます。
Q2. 役員報酬は入りますか?
A. いいえ。役員報酬は含まれません。
Q3. パート社員はどう数えますか?
A. 正社員の就業時間に換算して人数を算出します。
Q4. 3.5%は毎年達成しないとだめですか?
A. 考え方はCAGRです。最終年度で年平均3.5%以上の伸びになるように設計します。
Q5. 特例は必ず狙うべきですか?
A. いいえ。上限は魅力ですが、年平均6.0%は負荷も大きいので、達成可能性で判断する方が安全です。
まとめ
賃上げ要件で大切なのは、
- 1人当たり給与支給総額は給与支給総額÷従業員数で考えること
- 給料・賃金・賞与は含み、役員報酬等は含まないこと
- 年平均3.5%はCAGRで設計すること
- 賞与、人員構成、他要件との整合まで含めて考えること
この4つです。
まずは、「今の平均年収」「対象従業員数」「3年・4年・5年の着地点」を一枚の表にして整理するところから始めるのがおすすめです。

